脳内セックス
神尾
2006年05月12日
4,282
その女性と知り合ったのは
7月のある日。夕立の最中でした。
僕は都内にある美術館の喫茶店におりました。
夕立で足止めをくらい、
館内の庭園に面した喫茶店でコーヒーを飲みながら
持ってきた文庫本を開いていました。
章の終わりに本から目を離し、
コーヒーカップを傾けて何気なく辺りを見回すと
隣の席に白いワンピースを着た女性が座っています。
僕は不思議に思いました。店はすいていて
客は、決して狭くはない店内に
僕と彼女二人だけでしたが、
彼女は僕のすぐとなり、
手を伸ばせば届く席に座っているのです。
思わずじっと彼女を見てしまいました。
彼女は僕の視線に気づいたみたいでこちらを
振り返ります。
なぜかそのとき、僕は彼女から目線を離しませんでした。見知らぬ他人としては奇跡的に長い間
僕達は見つめあいました。
と、彼女の唇がかすかに動いた。
何かを言おうとしたのか、彼女は口を半開きにし
うっすら濡れた目で僕を見ている。
そして、我に返ったような顔をして僕から目をそらしたのです。
そこで僕は気づきました、微かな唸りに、
それは小刻みに振動する硬い物体が、
何か柔らかなものの内に包まれている音でした。
僕は再び彼女を見つめました。彼女はうつむいて
それでも僕の視線を感じて、肌を湿らせていました。
「雨、やみませんね」僕は声をかけてみました。
「ええ、」彼女は答えます。
「好きなんですね?こういうの」
「ええ」彼女は少し考えてから答えました。
「僕にはわからないけど、
今のあなたは凄く美しいです」と、そんな事を僕はなんとか彼女に伝えました。
彼女はうつむいてから意を決したように僕をみました。
僕はイスをずらし、彼女のそばに寄りました。
そしてゆっくり彼女の手の上に手を重ねたのです。
「イッていいよ」僕はいいました。
彼女はあどけなさの残る顔を僕に向けたまま
「あっ」と短くしかし熱いため息を漏らしました。
僕達は手を合わせただけですが、
きっと互いの脳の中で交じりあったのだと思います。
その交わりは肉体の交わりよりも甘美なものでした。
僕達はそのあとしばらく逢瀬をかさね、
彼女は今別の男性と結婚して暮らしています。
僕達は時々あの時の夢のような瞬間を今でも話します。
7月のある日。夕立の最中でした。
僕は都内にある美術館の喫茶店におりました。
夕立で足止めをくらい、
館内の庭園に面した喫茶店でコーヒーを飲みながら
持ってきた文庫本を開いていました。
章の終わりに本から目を離し、
コーヒーカップを傾けて何気なく辺りを見回すと
隣の席に白いワンピースを着た女性が座っています。
僕は不思議に思いました。店はすいていて
客は、決して狭くはない店内に
僕と彼女二人だけでしたが、
彼女は僕のすぐとなり、
手を伸ばせば届く席に座っているのです。
思わずじっと彼女を見てしまいました。
彼女は僕の視線に気づいたみたいでこちらを
振り返ります。
なぜかそのとき、僕は彼女から目線を離しませんでした。見知らぬ他人としては奇跡的に長い間
僕達は見つめあいました。
と、彼女の唇がかすかに動いた。
何かを言おうとしたのか、彼女は口を半開きにし
うっすら濡れた目で僕を見ている。
そして、我に返ったような顔をして僕から目をそらしたのです。
そこで僕は気づきました、微かな唸りに、
それは小刻みに振動する硬い物体が、
何か柔らかなものの内に包まれている音でした。
僕は再び彼女を見つめました。彼女はうつむいて
それでも僕の視線を感じて、肌を湿らせていました。
「雨、やみませんね」僕は声をかけてみました。
「ええ、」彼女は答えます。
「好きなんですね?こういうの」
「ええ」彼女は少し考えてから答えました。
「僕にはわからないけど、
今のあなたは凄く美しいです」と、そんな事を僕はなんとか彼女に伝えました。
彼女はうつむいてから意を決したように僕をみました。
僕はイスをずらし、彼女のそばに寄りました。
そしてゆっくり彼女の手の上に手を重ねたのです。
「イッていいよ」僕はいいました。
彼女はあどけなさの残る顔を僕に向けたまま
「あっ」と短くしかし熱いため息を漏らしました。
僕達は手を合わせただけですが、
きっと互いの脳の中で交じりあったのだと思います。
その交わりは肉体の交わりよりも甘美なものでした。
僕達はそのあとしばらく逢瀬をかさね、
彼女は今別の男性と結婚して暮らしています。
僕達は時々あの時の夢のような瞬間を今でも話します。